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仮名の女 1

うっすらと晴れた曇りの日、


私は未亡人だという女性と歩いていた。
なにげない会話は、まだお互いに知らないところがあるように身の上話をしあっていた。


突然、彼女が足を止めた。
人通りの少ない路地に入ったばかりだったので、何事かと思い彼女を見ると瞬時に拾った品のいい大きなショールを手慣れた手つきで取り、クルクルとそのショールを回したかと思うとアッというまに自分のカバンに入れた。


「それ、道に落ちていたものでしょう?汚いよ。第一、警察に落とし物として届けなきゃダメだよ。」という私の言葉を聞いているのか否か、また歩きだした。


『そんなの関係ないわ!後で警察に届けるからいいのよ。」と、警察は近いから届けようという私の言葉をさえぎるように彼女はいった。


そんなことがあってから、また十数日が経ったとき、今度は細いチェーンを彼女がまた拾っていた。
今度は、無言でサッと彼女は自分のカバンにチェーンを入れ、また何事もなかったかのように歩き出した。


その時の私は、彼女は以前も拾い物を警察に届けるのではなくてこうして着服していたのだと思った。


若くして亡くなったという彼女の旦那さんは、彼女と幼い子供をのこして逝ってしまったのだと私によくいっていた。


それにしても・・・。
手慣れた彼女の所作を私が目の前で見るのが嫌だった。


そんなに彼女の生活が困窮しているのだろうか?
お昼は、うどんでよいといい。
なにもトッピングもしなければ、サイドメニューにも手をださない。


グループで行動するときでも、彼女だけはレストランに入らずコンビニでパンを買って別のところへ食べにいくという節約ぶりだった。


彼女の子供さんは成人して、もう社会人らしいので、いったい彼女は借金でも背負っているのだろうか?と思った。


最初のうちは、それでは足りないだろうからとおにぎりやサイドメニュー、時としてお茶を私が彼女の分も支払っていたが、こうしょっちゅうとなったこの頃では、私は彼女がしたいようにすればよいと思った。


普通なら、食事のときに彼女と離れるはずであったが私たちが食事を終えるのをレストランのどこかで見ていたのか、私たちがレストランからでてくると彼女は待っていた。


けれど食事のあとに喫茶店に行くと私がいうと、彼女は用事ができたといった。
途中までは一緒なので歩いていると、アンケートに答えると粗品をくれると若い女性が近寄ってきた。


おもしろ半分でアンケートにこたえことにしたが・・・。
ふと横に彼女も書いていた。


若い女性が「本名でお願いします。」と言い足した。
なにげなく彼女の用紙をみると、彼女は違う名前を書いた。


後日、彼女に尋ねたところ、アンケートに書いた名前が本名で、日ごろ使っている名前は通称だということがわかった。


毎回のことになったが、彼女は友人からもらったチケットを売りに行くという。
この女性(未亡人)は怪しい人だと思った。