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悲しい思い出2

119番できた救急車の中では、テキパキとした方法で救命士の方が母の病状を和らげようと苦労して頂いていた。


「病院はどこに通っていられましたか?」救命士さんの問いかけに、
『K病院です。先ほど電話していますので・・・。』と私は応えた。


K病院は大きな総合病院で、いつも母と通院していたので、母のカルテはそこにあると救命士さんに伝えた。


早速、救命士の方はK病院に連絡を取りだされた。


救急車は赤信号の交差点でも、サイレンを高らかに鳴らしまっすぐK病院へと向かっていった。


ほどなく、K病院の救急入口に救急車はすべるように入口へと到着した。


入口には、白衣を着た一人の医師がたたずんでいた。


ストレッチャーで運ばれる母を付き添うように私も病院の処置室へといった。


待合室で数十分間、一人きりとなった私のもとに、先ほどの医師が現れた。


「処置は済みましたから、明後日の月曜日に外来にきてください。僕は今日は宿直なので、これ以上のことはできませんから・・・。」と私にいった。


私はすぐに処置室の母に駆け寄った。


弱弱しい母の手を持って、抱き起そうとしたが・・・、素人目の私がみても処置をしてもらって改善したとは思えなかった。


私は再び、先ほどの医師に問いかけた。


『どこを治療して頂いたのでしょうか?
母のあんな容態で、しかも明日は休日です。
それに月曜日の外来といったら、そうとう待たされるじゃないですか?あんな状態で待てると先生はおっしゃるのですか?』
私は医師に詰め寄った。


医師は、「とにかく、月曜日に来てください!」と私に冷たく言った。


「なんですって⁉ それでも、あんたは医者か!!」
医師を罵倒する私の言葉は処置室に響き渡った。


処置を終えたと思っていた看護師さんたちが処置室に駆け込んで、私と医師の口喧嘩を見つめていた。


私は医師に罵倒したときから覚悟を決めていた。
おそらく、私は病院の警備員がきて追い出されるだろうし、悪くすれば病院から訴えられるかもしれない。
しかし、このままでは私の母は死んでしまうのは明らかであるようにみえた。


もう警察沙汰になってもいい・・・、そう思いながら私は医師の理不尽さに怒りをおぼえていた。


看護師さんの誰かが呼んだであろう看護師長が処置室に駆け込んできた。


看護師長は私と医師の口喧嘩をやめるように促すと、内線電話でどこかに連絡した。


ほどなく他の医師が処置室に駆け込んできた。


後にわかったが、後からきた医師は部長医師だったそうだ。


部長医師は母の容態を診た瞬間、「看護師長、救急治療室へ搬送しなさい!!」と命令した。


母を乗せたストレッチャーは、そこから少し離れた救急治療室へと運ばれていった。


私も後からついていくと、看護師長さんは「ご家族はここまで!!」と私が先に入ることをとめた。


また私は一人で待っていた。


一人の看護師さんが私の前を通り過ぎようとした。


私は彼女に母の状態を尋ねた。
すると彼女は「今、とても危ない状態です。少し覚悟して頂くかもしれません。」と私に告げた。


あのまま、あの医師に促されるまま帰ってしまっていたら、私が母を殺したことになっていた⁉・・・、そんな思いが私の頭によぎっていた。
私は、母の命が救われるように心の中で祈った。


弟がほどなくやってきた。
弟は、私の顔をみることなく母のいる治療室へと行ってしまった。


それに気づいた私が弟を制止しようとする間もなく、弟は治療室の扉が開いている中に入ろうとした。


「邪魔だ!!出ていけ!!」部長医師の一喝した声が響いた。


私のところにバツが悪そうにきた弟に私も叱った。


部長医師や看護師長さん、看護師さんたちのおかげで母は命を取りとめることができた。


ただ・・・、あの口喧嘩した医師が母の担当となってしまった。