悲しい思い出24
まだ旧病棟であった当時の病院の廊下は木製で、早朝のキラー先生の足音が聞こえるタイミングが知りたくて、私は簡易ベッドの中で耳をすませていた。
しばらくすると、キラー先生が母の病室にやってくる足音が聞こえた。
キラー先生が病室に入るころには、私は簡易ベッドで頭から布団をかぶり、息をひそめた。
キラー先生は私が病室にいることも気づかず、母の採血を終えると静かに病室を出て行った。
私は彼が出て行ったあと、ひと呼吸するために布団からでたがまた布団をかぶって、まんじりとも動かないようにした。
少しするとキラー先生が母の病室にやってきた。
いつもならこの時間は、当番制に宿泊している私達家族はいないはずの時間だった。
キラー先生が再び母のいる病室に入り、椅子に座ったであろうことを気配で感じた私は、突然布団をはがしキラー先生の前に姿を現した。
『おはようございます!先生・・・。』とキラー先生に私は呼び掛けた。
キラー先生は、びっくりした表情で「お、おはようございます・・・、どうして?」と言いながら、母のほうを見た。
そんなキラー先生の問いに答えられない母は、思わず顔を下に向けてしまっていた。
これがドラマのシーンなら私は意地悪娘で母に虐待し、若い医師がそれを止めるも逆に意地悪娘に脅迫されるシーンとなる敵役だろうか?
どんなことになろうとも、やらなければならないという思いの私は、このままキツい娘役を演じるしかほかなかった。
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