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悲しい思い出9

次の日、私は昼頃に父と交代した。


父は母が入院してから、なんだかご機嫌だった。


朝から夜遅くまで働きづめだった母とは、ゆっくりと話ができてはいなかったらしく、それに近頃では病院の道すがらにあるあちらこちらの喫茶店でモーニングを楽しむという趣味が出来つつあったようだ。


けれど、母の容態が悪くなるにつれ会話が少なくなっていたようだった。


私が交代するとしばらくして、それまで黙っていた母が神妙な調子で私に告げた。
母の手には、薬が握りしめられていた。


「この薬、持って帰って!このまま治療をしても死ぬ方向なら私は薬を飲まないという方向にする!!」
そう母は私に告げた。


『なにをはかなことを!!そんなことをしたら大変なことになるよ⁉』


私は母を説得しようとしたが、母は私の言葉に頑として耳をかそうとはしなかった。


結局、その日はステロイド剤を呑まず、次の日から薬を少しずつ母と私で勝手に減らすということで、なんとか話が終わった。


「家族といえども、絶対に内緒だよ!!」
母は私に念を押すようにいった。


病院からの帰り道、私はもう一度考えてみた。
確かに治療方法がない病気だから、母の要望に応えずに悔やんでしまうということになるかもしれない。


とりあえず、母の想いに加担するしかないと、その時も私は思っていた。