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緑子の話 3

バタバタと家の廊下を走る音に緑子は目を覚ました。
寅吉が帰るまでにと緑子は読書をしていたのだが、いつの間にかうたた寝をしてしまっていたようだ。


それからほどなく緑子の部屋のドアをたたく音がした。
何事かと緑子はドアを開けた。


『奥様、電報でございます!」と家政婦のウタが緑子に電報を差し出した。
緑子はすぐに電報を開封した。
【父、危篤。すぐに来られたし。母。】


緑子は目を見開いて電報を確認したあと、まだそばにいたウタに言った。
「旦那様は?」
『奥様、まだ旦那様はお戻りではございません。」とウタは緑子にこたえた。


緑子はウタの返事を聞くと、すぐに別の部屋に置いてある電話へ向かった。
そしてウタに緑子は「出かける用意をして!」といった。


おわかりの方もいらっしゃると思いますが、当時は電話のある家はお金持ちだと決まっていました。
それほど電話は貴重だったんです。


緑子は近くに住む彼女のいとこに電話して、事情を話して車をよこして欲しいと電話で頼んだ。
ほどなくむかえの車がやってきたときには、外の雨がやんでいた。


緑子が玄関まで行くと、車の中にいとこの須磨子が座っていた。
『伯父様が大変なことになったわね。緑子さんお一人では大変と思ってきたんだけれど・・・、寅吉さんはもう帰ってらっしゃるの?』と須磨子は緑子にいった。


そんな須磨子が指さす方向をみると、いつも寅吉が乗っている車が奥のほうにとまっていた。
(なんで、あんなところに・・・)そう緑子は思ったが、寅吉はまだ帰宅していなかった。


車だけ戻っていたなら、須磨子にお願いする必要はなかった。
緑子は、家政婦のウタに運転手の立川が自宅にもどっているのかを確認すればよかったと悔やんだ。


「須磨子さん、ごめんなさいね。
まだ、主人は帰ってないから、このままお願いします。」
そういって緑子は須磨子と共に実家へと走っていった。


明朝、緑子の父は逝ってしまった。
あとに残るのは、年老いた母と弟夫婦、妹夫婦だった。


寅吉がウタから聞いてやってきたときには、緑子の父の臨終には間に合わなかった。


それから2年後


緑子は赤ん坊を抱いていた。
待望の我が子である。


これ以降、この子はすくすくと成長していくのだが・・・。


戦前のこと、どうとでもなったのであろう。
実は、父親は寅吉に間違いないが、緑子と赤ん坊の血縁関係はない・・・。
それでも、この赤ん坊は戸籍上は緑子と寅吉の実子となった。


この赤ん坊だが、寅吉が浮気した女性との間にできた子であった。


当時は、子無しの嫁の立場は弱かった。
緑子は苦渋の決断をし、この赤ん坊をその女からお金で買ったのだった。
それから、この赤ん坊が生まれるまで緑子はクッションをお腹に入れて妊婦を装った。
その間、寅吉は女性のところに頻繁に通った。


戸籍上は緑子と寅吉の実子となった赤ん坊が成長するにつれて、一つの幸せな家庭を築いていくこととなる。
しかし、一部の人達はその娘が緑子の本当の子ではないことを知っていた。


そんな大人の会話を、頻繁に遊びにきていた母が見聞きすることになる。
緑子は幼き母にいった。
『お願い、娘のためにもずっと黙っていて欲しいの。そしてね、娘を護って欲しいの。私からの頼みを聞いて欲しい』
と緑子は私の幼き母に向かって頭を下げられたそうだ。


その一方で、寅吉の女癖の悪さを緑子が目撃することになった。


月日は流れ・・・。


寅吉は病に倒れた。
数年の闘病生活となった一家には、あれほど訪れていた客の足がとまり、経済的に衰弱していく我が家の家計に緑子は悩んでいった。


我が家に奉公していた者たちは去り、寅吉の看護は緑子と娘の2人だけとなった。


それから数年後、
寅吉は他界した。


最期に屋敷に様子を見に来た人がいうには
『寅吉先生・・・最後は人間扱いされていなかったんじゃないかな?
なんか、動物のえさでもやるように娘が父親を扱っていたからな。
奥様かい?足が悪いそうで殆ど介護はされてなかったんじゃないかい?
まあ、先生もいろいろ女癖が悪くて奥様を泣かせたもんな~。
にしてもだ、あの娘の態度はな・・・。』


娘を溺愛していた寅吉だったが、最期は娘に裏切られてしまったということだろうか?


更に月日が流れた。


緑子は亡くなった後、私の母は約束をまもったのだが・・・、結局は、その娘(当時はおはさん)に手ひどい裏切りにあってしまった。
けれど、母は緑子おばあちゃん(私の認識)の約束を守って、他人にひどい中傷をいわれても耐え抜いた。


そんな娘を緑子は、どう感じていたのだろうか?
もう昭和は遠い・・・。